虐待防止の背景
(1)尊厳と人権を守る
2005年(平成17年)の介護保険制度の改正に際して、介護保険法第1条の「目的」に、人間としての「尊厳の保持」が明確に掲げられました。虐待は、その人間の尊厳が著しく損なわれた状態だといえるため、福祉の現場ではあってはならないことです。支援の方法が分からずに障がい者のためになると思ってしていることが、実は虐待につながっていたケースもあります。そのため、虐待をしている人に自覚があるとは限りません。したがって、障がい者が危険な状態に陥っていることもあります。障がい者が尊厳ある存在として「その人らしい、いきいきとした生活」を送るための支援が必要です。
(2)高齢者虐待防止法
「高齢者虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(高齢者虐待防止法)が2006(平成18)年4月に施行され、高齢者虐待防止に関する行政や国民の責務が定められました。養護者(在宅で高齢者を養護、介護する家族や親族)による虐待だけでなく、養介護施設従業者等による虐待として、老人福祉法や介護保険法の規定による施設・居宅・地域密着型サービスの事業所が範囲に含まれています。
(3)障がい者虐待防止法
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)が2012(平成24)年10月に施行されました。国や、地方公共団体、障害者福祉施設従事者や使用者等に障害者虐待の防止等のための責務を課すとともに、障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に対する通報義務を課すなどしています。障がい者に対する虐待が障がい者の尊厳を害するものであり、障がい者の自立及び社会参加にとって虐待を防止することが極めて重要であること等に鑑み、虐待防止、早期発見、虐待を受けた障がい者に対する保護や自立の支援、養護者に対する支援等を行うことにより障がい者の権利利益の擁護に資することを目的としています。
虐待の種類
(1)対象者
障害者虐待防止法の対象となる障がい者の定義は「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」です。この定義のなかには、障がい者手帳を取得していない人も含まれます。
(2)誰からの虐待が対象なのか
①養護者による虐待
「養護者」とは、障がい者を現に養護する者であって障がい者福祉施設従事者等及び使用者以外の者を指し、身辺の世話や金銭の管理等を行っている障がい者の家族、親族、同居人等が該当します。 また、同居していなくても、身辺の世話をしている親族・知人等が養護者に該当する場合もあります。
②障がい者福祉施設従事者等による虐待
「障がい者福祉施設従事者等」とは、障害者総合支援法に規定する障がい者福祉施設又は障がい福祉サービス事業等にかかる業務に従事する者を指します。
③使用者による虐待
「使用者」とは、障がい者を雇用する事業主又は事業の経営担当、その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をする者を指します。
(3)虐待の種類(名古屋市障がい者虐待相談センターから引用)
①身体的虐待
身体に傷や痛みを負わせる暴行をしたり、身体を縛り付けたり、過剰な投薬によって身体の動きを抑制したりすること。
例))平手打ちする ・殴る ・蹴る ・壁に叩きつける ・つねる ・無理やり食べ物や飲み物を口に入れる ・やけど ・打撲させる 身体拘束(柱や椅子やベッドに縛り付ける、医療的必要性に基づかない投薬によって動きを抑制する、ミトンやつなぎ服を着せる、部屋に閉じ込める、施設側の管理の都合で睡眠薬を服用させる等)
②性的虐待
無理やり(または同意と見せかけ)わいせつなことをしたり、させたりすること
例)・性交 ・性器への接触 ・性的行為を強要する・裸にする・キスする
・本人の前でわいせつな言葉を発する、又は会話する・わいせつな映像を見せる
・排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下半身を裸にしたり、下着のまま放置する。
③心理的虐待
脅しや著しい暴言、無視など拒否的な態度により精神的な苦痛を与えること
例)・「ばか」「あほ」等、障がい者を侮辱する言葉を浴びせる
・怒鳴る ・ののしる
・悪口を言う
・仲間に入れない
・子ども扱いする
・人格をおとしめるような扱いをする
・話しかけているのに意図的に無視する
④放棄・放置(ネグレクト)
食事や排泄、入浴、洗濯など身辺の世話や介助をしないことにより、生活環境や身体・精神的状態を悪化・衰弱させること
例)・食事や水分を十分に与えない
・食事の著しい偏りによって栄養状態が悪化している
・あまり入浴させない
・汚れた服を着させ続ける
・排泄の介助をしない
・髪 や爪が伸び放題・室内の掃除をしない
・ごみを放置したままにしてある等劣悪な住環境の中で生活させる
・病気やけがをしても受診させない
・学校に行かせない
・必要な福祉サービスを受けさせなかったり、 制限したりする
・同居人による身体的虐待や心理的虐待を放置する
⑤経済的虐待
本人の同意なしに(あるいはだますなどして)財産や年金、賃金などを使うこと。理由なく、金銭を使わせないこと
例)・養護者又は養護者以外の親族が年金や賃金を渡さない
・本人の同意なしに財産や預貯金を処分、運用する
・日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない
虐待の未然防止
(1)虐待防止委員会の設置
虐待防止に向けて委員会を設置し、その結果について従業者に周知徹底を図る。なお、「身体拘束適正化委員会」も併せて同時に開催することとする。
①設置目的
(ア)事業所内での虐待防止に向けての現状把握及び改善についての検討
(イ)虐待を発見した場合の対応の検討
(ウ)虐待防止に関する職員全体への指導
②委員会の構成員・管理者、従業者委員会は上記構成員をもって構成するほか、必要に応じてその他職種職員を参加させることができることとする。なお、必要に応じて、従業者、相談支援事業所、医療機関の医師、精神科専門医等や知見を有する第三者の助言を得る。
③開催頻度
(1)年2回以上の研修、委員会を定期的に開催する。
(2)新規採用時に、虐待に関する研修を実施する。
④委員会の取り組み
(1)年間研修計画に沿って、研修を実施する。
(2)日常的支援について、従業者へのモニタリングを実施して、虐待の兆候を慎重に調査し、検討及び対策を講じる。
(3)虐待が発生した場合には、委員会において原因、問題点を検討し、再発防止策を講じる。
(2)管理者による定期面談
虐待防止に向けて毎月1回管理者の面談を通して、虐待に関する兆候や実態がないかを利用者に実施する。面談の内容は、職員全体に周知する。
(3)職員アンケートの実施
障害者福祉施設において虐待が発生する背景には、障害の特性に対する知識や理解の不足、障害者の人権に対する意識の欠如、障害者福祉施設の閉鎖性が原因と言われているため、自分、職員の行動を点検するアンケートを実施します。厚生労働省の「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」の施設・地域における障害者虐待防止チェックリストを活用する。
アンケートの結果を受けて、委員会で実態調査、それらに関する対応や対策を職員全体に周知する。
(3)風通しの良い風土作り虐待が行われる背景として、密室の環境下で行われることと合わせて、組織の閉塞性や閉鎖性が指摘されます。報道事例にあった障害者福祉施設等の虐待事件検証委員会が作成した報告書では、虐待を生んでしまった背景としての職場環境の問題として「上司に相談しにくい雰囲気、また『相談しても無駄』という諦めがあった」「職員個人が支援現場における課題や悩みを抱え込まず、施設(寮)内で、あるいは施設(寮)を超えて、相談・協力し合える職場環境が築かれていなかったと言える」と指摘されています。職員は、他の職員の不適切な対応に気が付いたときは上司に相談した上で、職員同士で指摘をしたり、どうしたら不適切な対応をしなくてすむようにできるか会議で話し合って全職員で取り組めるようにしたりする等、オープンな虐待防止対応を心掛け、職員のモチベーション及び支援の質の向上につなげることが大切となります。そのため、支援に当たっての悩みや苦労を職員が日頃から相談できる体制、職員の小さな気付きも職員が組織内でオープンに意見交換し情報共有する体制、これらの風通しのよい環境を整備することが必要となります。また、職員のストレスも虐待を生む背景の一つであり、夜間の人員配置等を含め、管理者は職場の状況を把握することが必要となります。職員個々が抱えるストレスの要因を把握し、改善につなげることで職員のメンタルヘルスの向上を図ることが望まれます。
(厚生労働省の「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」より引用)
・社員会議の実施
毎月社員全員を対象にした会議を実施して、全員で話し合える風土作りを行います。また会議において虐待の兆候や実態がないかの確認を行い、虐待防止及び早期発見に努めます。
・職員のストレスチェック表の活用
施設における職員のストレスを把握する目的で、年に1回実施します。
厚生労働省の「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」における
「職業性ストレス簡易調査票」を活用する。
虐待発見時の対応
(1)虐待発見時の通報の義務
障害者虐待防止法において、下記のように定められています。
(障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る通報等)
1. 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。2. 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けた障害者は、その旨を市町村に届け出ることができる。3. 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第1項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。4. 障害者福祉施設従事者等は、第1項規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いを受けない。
(2)虐待発見時の対応
①本人(発見者)から虐待の情報提供。
②虐待防止委員会及び管理者、サービス管理責任者に報告する。
③虐待に関する詳細な情報(安否確認、いつ、どこで、誰が、どうされたのかなど)を記録する。
④該当する各関係機関へ相談・通報
【名古屋市障害者虐待相談センター】
住所:名古屋市北区清水四丁目17-1
名古屋市総合社会福祉会館5階
電話番号:052-856-3003
ファクス番号:052-919-7585
電子メールアドレス:gyakutaisoudan@sound.ocn.ne.jp
・養護者の場合
区役所保健福祉課へ相談・通報。
・障害者福祉施設従事者等
名古屋市障がい福祉課へ相談・通報
・使用者の場合
労働局、労働基準監督署へ相談・通報。
⑤虐待対象者への安全・安心の確保
⑥虐待者、対象者への具体的な内容の聞き取り
⑦虐待委員会を中心に速やかな対応の検討及び実行
⑧家族等に対しての速やか対応と説明を行う
⑨必要に応じて、医療機関への受診
また、報道機関からの取材等には、被害者等のプライバシーを保護するとともに、施設長が適切に対応します。
附 則
この指針は、令和4年4月1日より施行する。
令和5年4月1日改訂