介護現場における感染対策の手引きー厚生労働省

1.感染症新法

感染力が強く危険の高い感染症に対し、国が法的に予防対策としたもので、1999(平成11)年4月に伝染病予防法、性病予防法、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律が、感染症新法に改められました。その後、重症急性呼吸器感染症(SARS)などの発生の影響により、2003(平成15)年に感染症新法の改正が行われ、感染症法として施行されました。2014(平成26)年11月には、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)が改正され、感染症分類に追加・変更が行われました。

2.感染予防

世話人は、自身の健康管理を行う上で、日頃から感染予防に対して強く意識し、対応していく必要があります。これは、世話人自身が感染症にかかっていなかったとしても、外部から感染源を持ち込んだり、複数の利用者に援助を行っていく上で、利用者から利用者への感染を媒介してしまう可能性があるからです。そのため、出勤・退勤の際や1人の利用者に接する前後のタイミング等でその都度うがいや手洗いの励行を徹底し、習慣化していく必要があります。世話人として「感染源を持ち込まない・持ち出さない・広げない」(図2)という意識を持ち、自身が感染源や媒介者とならないように、健康管理に留意することが大切です。

介護現場における感染対策の手引きー厚生労働省

3.感染の原因と経路

病原体は、その病原体による感染症を発症した人、その病原体を保有している保菌者、それら病原体で汚染された器具・物品などの感染源からうつります。菌やウイルスが感染源から人へうつる道筋のことを感染経路といいます。ここでは世話人が理解しておきたい感染経路のパターンは3つです。
(1)接触感染
直接病原体に接触することでうつるのが接触感染です。接触の主役は「手」です。結核菌以外のほとんどの菌は手を介してうつります。つまり「触って、その手で次の人や物に触って」うつります。

介護現場における感染対策の手引きー厚生労働省


(2―1)空気感染
空気中を漂っている菌やウイルスを吸い込んだりしてうつります。結核菌や麻疹(はしか)・水痘(水ぼうそう)のウイルスなどがこれにあたります。結核菌は、せき・たんとともに吐き出され、」空気中を漂っていきます。したがって菌を周囲にばらまいている(排菌している)人は、入院のうえ隔離して治療します。
(2―2)飛沫感染
空気感染とよく似たものに、「飛沫感染」があります。「飛沫」とはせきやくしゃみのしぶきのことで、この飛沫は空気感染の場合ほど遠くまでは飛びません。だいたい1mぐらいの範囲で床に落ちます(空気が乾燥していると
もう少し遠くまで浮遊することがある)。飛沫感染するのは、かぜのウイルス、インフルエンザウイルス、風疹(三日はしか)ウイルス、マイコプラズマ、溶血性連鎖球菌、髄膜炎菌、百日ぜき菌などです。飛沫感染の恐れがあるからといって、世話人の判断のみで利用者を隔離する事は身体拘束となります。異変を感じたら速やかに相談・報告を行い指示を仰ぎ、具体的な状況(症状・人数等)を把握し時系列に記録をまとめます。

護現場における感染対策の手引きー厚生労働省

(3)血液感染
ウイルスなどがすんでいる血液が、直接別の人の血液に入ると、その病原体がうつります。B型・C型肝炎、梅毒、エイズなどが血液感染で起こる病気です。

介護現場における感染対策の手引きー厚生労働省

4.スタンダード・プリコーション(標準予防策)
福祉の現場の感染予防策として最も適しているのは、利用者の体力や抵抗力を高めることと、もう1つは「感染経路を断つ」というものです。この「感染経路を断つ」ために参考とされるのが「スタンダード・プリコーション」と呼ばれる感染予防策です。スタンダード・プリコーションでは、まず基本として、色々な病原体は(未知の病源
体も含めて)以下4つに多量に含まれているので、これらを扱う時にこそ「感染のリスクがあるもの、感染の可能性があるもの」として注意をするように促しています。

①血液
②体液、分泌液、嘔吐物、排泄物(汗を除く)
唾液、涙、鼻汁、たん、胃液、胆汁、腸液、尿、便、精液、膣分泌液、吐物、膿など。汗には病原体は含まれていないか、あるいは含まれていても感染を起こすほどの量ではないので除かれます。
③傷害のある皮膚
湿疹や褥瘡などでジクジクしているところ、水ぶくれ、傷を負ったりやけどをした皮膚などです。
④粘膜
私たちの身体のなかで、鼻の中、口の中、肛門の中、眼球の表面など、しっとりしているところをいいます。

以上4つのものを「感染する危険性のあるもの」です。
スタンダード・プリコーションでは、これらの感染する危険性があるものに、
①素手で触れないようにする。
②触りそうなときには最初から手袋をする。
③もし素手で触ってしまったらすぐに手を洗う。
④たとえ手袋をしていたとしても外した後は手を洗う。
ということを指示しています。加えて、下記に留意します。
①顔にかかったり接触したりすると思われるときは、マスクやゴーグルなどを使用する。
②身体にかかったり、接触したりすると思われるときは、ガウン(可能な限り使い捨てのもの)を着用する。
③使用後の注射針はリキャップせず、所定の容器に捨てる。

5.手洗い
厚生労働省手洗い

(1)流水と液体石鹸で手を洗う場面
・勤務に入るとき、勤務が終了したとき
・感染する危険性があるものに関わるケア行為の後
・感染する危険性があるもので手が汚染されたとき
・勤務の区切りのとき(食事や仮眠に入るときなど)
・訪問の仕事から戻ったとき
・トイレで用を足した後
・喫煙の後
・必要があって手袋をして、それを外したとき
・その他気が付いたとき、手を洗うか迷ったとき

(2)速乾性擦り込み式手指消毒剤を手に擦り込む場面
・感染する危険性があるもので手が汚染されて流水・石鹸で手を洗った後には、速乾性擦り込み式手指消毒剤を擦り込んで消毒しておく。
・感染する危険性のあるものに関わるケア行為の後、あるいは手袋を外したとき、目に見える汚染がない場合に、流水・石鹸による手洗いの代わりに行う。
・その他気が付いたとき、手を洗うか迷ったときなど。

6.手袋
手袋は、血液や体液など感染する危険性があるものに触れるとき、あるいはその可能性があるときに着用します。
・尿や便、吐いたもの、血液等で汚染されたものに触れるとき
・床を汚染した血液や体液を拭き取るとき
・自分の手指に傷があるとき
※一般の家事援助では手袋を使用しなくてもよいです。

7.うがい
うがいによって、口や喉に吸い込んだ病原体を洗い流します。マスクをせずにせきやたんのひどい人のケアをした後にはうがいをしましょう。自分がかぜをひいているときもうがいをします。そのほかには基本的に
・出勤したとき
・勤務の区切りの時(食事や仮眠に入るときなど)
・訪問の仕事から戻ったとき
・勤務終了時にはうがいをします。
うがい用の消毒剤がありますが、使いすぎると口の中の常在菌が死んでしまうので、それらの消毒剤を使ったうがいは1日5回以内程度にします。

8.マスク・エプロン
血液、体液、嘔吐物、排泄物などの感染の危険性があるものが顔にかかるときにはマスク(使い捨てのサージカルマスク)を、身体にかかるときにはエプロンをします。

9.洗浄と消毒
(1)洗浄
洗浄とは、汚れをおとすことです。汚れとは、スタンダード・プリコーションにおける血液、体液、分泌液、嘔吐物、排泄物、すなわち感染の危険性があるものやほこりなどのことを指します。これらの汚れのなかに病原体は集中しているため、汚れを洗い落とす「洗浄」作業は大変有効な感染防止策になります。
(2)消毒
洗浄した後、残っているかもしれない病原体の感染症をなくすか、数を減少させることを「消毒」といいます。」病原体を全部殺す必要はありません。完全な無菌状態でなくても(完全な無菌状態にすることを「滅菌」という)、病原体の数がぐっと減れば、感染を起こす力はなくなります。消毒には熱水や消毒剤を使い、消毒する対象に応じて使い分けます。熱水とは80℃以上に熱した水のことで、これに器具などを10分以上浸けると消毒の効果が期待できます。実際は80℃のお湯も時間とともに冷めるので、鍋で器具を10分以上グツグツ煮沸消毒します。
消毒剤にはいろいろなしゅるいがあります。金属以外のものを消毒する場合は次亜塩素酸ナトリウムという消毒・漂白剤が使いやすいです。消毒・漂白は適度な濃度に調整して用います。
(3)すすぎ、乾燥
もう1つ大切なことは「すすぎ」と「乾燥」です。」洗浄したもの、消毒したものには、洗剤や消毒剤がまだ残っています。これをきれいに水で洗い流し、これらの成分が残らないようにします。湿ったものには菌などがつきやすく、また繁殖もしやすいのです。
(4)実際の場面に即して
・日常の生活用品(食器、タオル、衣服、リネンなど)は、血液や体液」などで汚れていなければ、本来は洗浄と乾燥で十分です。すべてを消毒する必要はありません。
・壁や床、浴槽なども、血液や体液で汚れていなければ消毒剤を使って消毒はしません。通常の洗剤による洗浄をします。
・手袋を外した後の手は、石鹸で洗浄します。もし手が血液や体液で汚れたら、石鹸で洗浄した後、消毒剤をてにつけて消毒しておきます。
・体温計は消毒用アルコール綿で拭いて消毒します。
・手は最もいろいろなところに触れる部位です。こまめに手を洗浄するようにします。

10.嘔吐物・排泄物の処理
嘔吐物・排泄物については、感染性胃腸炎(ノロウイルス等)も想定して、速やかにかつ入念に清掃することが重要です。まず、近くにいる人を別室などに移動させ、換気をしたうえで、嘔吐物・排泄物は、マスク、使い捨てエプロン(ガウン)、使い捨て手袋を着用(できればゴーグル・靴カバーも着用)して、ペーパータオルや使い捨ての雑巾で拭きとります。処理手順については、以下を参照しましょう。特に嘔吐物は広範囲に飛散するため、拭き残しの内容に注意しましょう。なお、嘔吐物が付着した洗濯や食事(食器)については洗浄、消毒を行いましょう。
<処理手順>
・窓を開けて換気を行います。
・近くにいる人を移動させ、処理を行う職員以外は立ち寄らないようにします。
・嘔吐物・排泄物の処理の手順を徹底し、速やかに処理します。
・マスク、使い捨てエプロン(ガウン)、使い捨て手袋を着用します。
※ノロウイルスは「飛沫感染や空気感染も指摘されているので、マスクを必ず着用します。
・嘔吐があった場合には、周囲2mくらいは汚染していると考えて、まず濡れたペーパータオルでや布などをかぶせて拡散を防ぎます。
・ペーパータオルや布等で、外側から内側に向けて静かに拭き取ります。汚染を広げないために、一度拭き取ったペーパータオルは捨てます。
・最後に次亜塩素酸ナトリウム液(0.02%)で浸すように拭き取り、その後に水拭きします。
※嘔吐物処理用品を入れた処理用キットをいつでも使えるように用意しておくことが推奨されます。(次亜塩素酸ナトリウム液の使用期限が切れていないか要確認)
※消毒液スプレーで吹きかけると、逆に病原体が舞い上がり、感染の機会を増やしてしまうため、噴射はしないようにします。
・使用したペーパータオル等は、ビニール袋に密閉して廃棄します。この際、ビニール袋に廃棄物が十分に浸る量の次亜塩素酸ナトリウム液(0.1%)を入れることが望ましいです。
・トイレ使用の場合も換気を十分にし、便座や周囲の環境も十分に消毒します。
・処理後は手袋、マスクを外して液体せっけんと流水で入念に手を洗います。
・次亜塩素酸ナトリウムを使用した後は窓を開けて、換気します。

11.血液・体液の処理
他の利用者や職員の感染を防ぐためにも、血液等の体液の取り扱いには十分に注意が必要です。血液などの汚染物が付着しているところは、手袋を着用し、消毒液を用いて清拭消毒します。化膿した患部に使用したガーゼ等は、他のゴミと別のビニール袋に密封して、直接触れることのないように扱い、感染性廃棄物として分別処理することが必要です。
手袋、ガウン、覆布(ドレープ)などは、可能な限り使い捨て製品を使用することが望ましいといえます。使用後は、専用のビニール袋や感染症廃棄物容器に密閉し直接触れることのないように扱い感染症廃棄物として分別処理します。

介護現場における感染対策の手引きー厚生労働省

参考
一般財団法人 長寿社会開発センター 介護初任者研修テキスト第1巻 人間と社会・介護1
三幸福祉カレッジ 介護福祉士実務者研修テキスト第3巻介護Ⅰ
介護現場における感染対策の手引きー厚生労働省