近年の少子高齢化による労働人口の減少により、人手不足が問題視されています。

そのなかで障がい者グループホームも例外ではありません。

最近では、国内の人手不足解消の対策として、外国人労働者の受入れを始めている企業も増えてきています。

実際に福祉業界においても、外国人労働者の受入れが実施されていますが、こういった政策に対する課題もあります。

本記事では、障がい者グループホームにおける外国人労働者の受入れと課題について解説。また、政策に対するメリットとデメリットも説明します。

障がい者グループホームにおける外国人労働者の受入れと4つの課題

2019年から日本国内の企業で外国人労働者の受入れをスタートしています。特に人手不足が慢性化している福祉業界では、外国人労働者が増加傾向に。

雇用条件として、技能実習生・アルバイト・在留資格に分かれます。しかし、彼らを受入れている企業は少数であることが現状です。

さらに、近年の新型コロナウイルスの影響で、海外からの渡航制限があるため、日本で働きたい外国人の受入れも簡単にはいきません。

そのため、満足のいく人手不足解消には至っていないところが現実です。

実際に外国人労働者を受入れを行う企業では、以下のような課題を抱えています。

  • 外国人労働者の日本語力
  • 外国人労働者に抵抗を感じる
  • 外国人労働者の定着率
  • 日本人と同じ対応力が求められる

それぞれ1つずつ解説します。

外国人労働者の日本語能力

外国人労働者の受入れで懸念されているのは、彼らの日本語能力です。障がい者グループホームでは、入居者の方とスタッフとのコミュニケーション能力が問われます。
日本語が完璧でなくても、伝えようとする姿勢が大切なので、伝わりやすい表現の学習が欠かせません。

しかし、外国人労働者の受入れ条件では、日本語能力が低い状態であっても就労可能としているため、業務に支障をきたすことも。

業務以外にも生活面でコミュニケーションが取れずに、帰国する外国人労働者も少なくはありません。

福祉業界で就労を希望する外国人は、介護福祉士の試験に合格しなければ、母国に強制帰還されることも。試験は日本語で行われるため、合格は容易ではありません。

こういった日本語の壁が、外国人労働者を受入れる上で問題視されています。

外国人労働者に抵抗を感じる

障がい者グループホーム入居者の方やその家族のなかには、外国人労働者による世話に抵抗を感じることも。外国人に対する偏見や、コミュニケーションが上手く取れないことでトラブルに転じる可能性も少なくありません。

また、同じ現場で働くスタッフのなかにも、外国人労働者と働くことに抵抗を感じる人もいるでしょう。

人手不足対策のメリットになる反面、受入れ側である日本人にも改善の余地があります。

外国人労働者の業務スキルや言語スキルはもちろん必要ですが、期待しすぎないことがポイントです。

日本が母国ではない彼らにとって、仕事以外でもストレスを抱えているのかもしれません。

人手不足を上手く解消させるためには、外国人労働者をサポートする前提で、考え方や価値観を受入れる姿勢でいることが大切です。

外国人労働者の定着率

EPA(経済連携協定)介護福祉候補生が資格水準に満たないことで強制送還されたり、すでに雇用されている外国人労働者はストレスで離職するケースが後をたちません。

つまり、日本で働く外国人労働者は優秀な人材が多いため、メンタルや職場環境次第で定着率が変わるでしょう。

必ずしも日本で福祉業界で働く必要はないため、母国で働くことを望む外国人もいます。

また、日本企業が海外進出するなかで、日本語能力のある外国人の需要が高く、働く場所は自由に選択可能です。

そのため、日本における外国人労働者の定着率を下げる要因の1つになっています。

日本人と同じ対応力が求められる

障がい者グループホームでは入居者の方を始め、スタッフも外国人労働者に対して、日本人スタッフと同様の対応が求められています。

そのため、実際の業務においてホスピタリティ面に不安を感じていることも多いでしょう。

しかし、実際に外国人労働者を雇用した施設では「日本人では気づかない部分にも目を向けてくれた」という声もあるので、満足している雇用主もいます。

外国人労働者に対して教育研修を実施することで、入居者の方へのホスピタリティの重要性や、業務を通じて不安を解消させることが大切です。

障がい者グループホームで外国人労働者の受入れるメリット・デメリット

障がい者グループホームで外国人労働者を受入れるメリット・デメリットを把握しておくことで、雇用側の対応が明確になります。

外国人労働者とはいえども、同じ人間なので仕事に対する熱意もあるはずです。彼らに対して偏見を持ってしまうことは仕方がありませんが、特にチームワークが必要な業務においては配慮が必要になります。

メリット

外国人労働者が実際に障がい者グループホームで行う業務としては、世話人が行う入居者の方に対する支援になります。施設によって業務内容は異なるかもしれませんが、入居者の方にとっては食事・家事・排せつなど日常生活で欠かせない業務です。

こういった業務は入居者の方と深く接する必要があるため、言葉の壁や寄り添った対応が求められます。外国人労働者にも同様にできるかどうかを不安視する家族も少なくはありません。

実際には日本への入国資格として日本語能力試験に合格しているため、日常生活には支障がない会話スキルを身に付けています。

母国で4年制大学卒業もしくは介護士認定を受けていることが必須なので、彼らは意識の高い優秀な人材です。

そのため、入居者の方やスタッフからは高評価を得ていることを前提に、障がい者グループホームにおいて、外国人労働者を受入れるメリットは以下のとおりです。

  • 人手不足の解消
  • 外国人労働者の価値観に触れられる

それぞれ詳しく説明していきます。

人手不足の解消

近年、日本では少子高齢化による労働人口不足が問題視されています。そのため、将来的に人手不足が深刻になることも。
2019年に日本国内で人手不足解消に対する政策の一環で、外国人労働者の受入れが始まりました。彼らを採用することで、福祉業界の慢性的な人手不足解消が期待されています。

さらに、人手不足解消がもたらすメリットとして、スタッフの離職率低下や定着率の向上に繋がることも。

離職率が高い要因の1つに人手不足による業務負担があるため、外国人労働者を受入れることで、労働時間の削減や職場環境に対する満足度が上がります。

外国人労働者の価値観に触れられる

実際に外国人労働者の受入れを行う障がい者グループホームでは、「人材に余裕ができる」「コミュニケーションが活発になる」「現場が明るくなる」といった評価がある一方で、日本語能力不足や文化の違いによる違和感を感じることも少なくはありません。

こういった不安は外国人労働者も同様に感じています。母国に帰る可能性もあるため、雇用側の体制を整えることが大切です。

日本人と外国人労働者が快適に働くためには、お互いに歩み寄りが必要になります。母国以外の環境で必死に働く外国人労働者に対して、長時間労働や差別など問題があることも事実です。

外国人労働者を受入れることに不安を感じることが多いかもしませんが、人手不足が続くなかで、彼らは貴重な存在でもあります。受入れを検討している事業所は、サポート体制と職場環境を整えることから始めましょう。

実際、日本人労働者でも仕事ができる人とできない人に分かれています。その労働者も外国で育った人もいるかもしれません。

こういった環境が当たり前になった今だからこそ、相手を尊重することがポイントです。

デメリット

外国人労働者の受入れを行う前に、雇用側は万全なサポート体制でないと、離職に繋がる可能性もあります。人間関係が良くない職場環境だと、コミュニケーションや業務上で支障をきたす場合があるので、慎重に検討することが大切です。

また、外国人労働者の考え方や習慣を否定したり、無理やり変えようとするとパワハラと見なされ、雇用側が不利な状況に陥ることも。

こういったことから、外国人労働者に対する扱いは日本人労働者同様に注意しなければなりません。

障がい者グループホームにおいて、外国人労働者を受入れるデメリットも紹介します。

偏見されがち

日本だけでなく、海外でも外国人に対して偏見を持つ人がいます。日本で就労するにあたり、偏見を持たれることに対して不安に感じる外国人労働者も。

現代ではグローバル化が進み、日本で働く外国人がたくさんいるため偏見を持つ人も減少傾向にあります。

しかし、外国人労働者だからといってサービスの質を落とさずに、教育にも力を入れることで、信頼感を積み上げる努力は必要です。

さまざまな面でサポートが必要

外国人労働者を受入れる場合において、母国以外の国で健全に暮らしながら、意欲的に仕事に取り組めるように、多角的なサポートが必要になります。

また、そのためには受入れる外国人労働者の国の文化や国民性の理解が必須です。彼らが生活面で困ったことがあれば、気軽に相談できるくらい打ち解ける努力も必要になります。

もちろん、外国人労働者に注視するだけでなく、日常的に入居者の方や日本人スタッフにも配慮しなければなりません。

外国人労働者の受入れ制度と政策

これから外国人労働者の受入れを検討している障がい者グループホームは、制度や政策について理解しておく必要があります。

外国人労働者が就労するにあたって必要な資格と制度は、以下の3種類です。

  • 在留資格
  • EPA(経済連携協定)
  • 技能実習

それぞれ順番に説明していきます。

在留資格

障がい者グループホームで外国人労働者を受入れてもらうには、在留資格「介護」が必要です。在留資格「介護」とは、外国人が日本の介護福祉養成学校を卒業後、介護福祉士として就労が認められる資格となります。

原則、更新制限がないため、長期的に人材確保が可能です。特に登録支援機関は不要であるため、費用は発生しません。また、業務内容に制限がないことも大きなメリットです。

彼らの日本語能力は母国語レベルに近いので、コミュニケーションによるトラブルは滅多にありません。

ただし、必ずしも同じ職場に在籍をする義務はないので、転職も認められています。そのため、転職の可能性もあることを覚えておきましょう。

また、介護福祉養成学校に通学中は、介護施設において週28時間までアルバイトが可能です。

在留資格のデメリットとしては、養成学校によって日本語能力の基準が異なるため、卒業したからといって必ずしも日本語でスムーズな会話ができるわけではありません。

事業者側は、外国人労働者に対する採用活動の仲介機関がないため、介護福祉養成学校と連携しながら募集を行う必要があります。

EPA(経済連携協定)

EPA(経済連携協定)とは、国家間の投資や貿易による経済活動を支援するために発足した制度です。そのなかで、福祉分野では介護福祉士の資格取得を目的とする介護福祉士候補生の受入れを始めています。

EPA介護福祉士候補生は、主にインドネシア・フィリピン・ベトナムの3か国に限定されており、国家資格の介護福祉士の取得を目指すものです。

母国によってコース内容・在留期間が異なります。その期間中に介護福祉士の資格に合格しなければ強制帰国に。試験内容は日本語で行われるため、日本人と同様に難易度が高い資格です。

資格取得ができれば、在留資格「EPA特定活動」から「介護」に更新されるので、日本の福祉施設で就労ができます。

あくまでも「候補生」なので、必ずしも就労が目的ではありません。EPAのメリットは日本滞在可能期間が4年間と定められています。

その間に資格取得ができれば、永続的に日本で労働が可能です。

技能実習

外国人技能実習「介護」は、日本の技術を発展途上国の経済発展のために移転を目的とした制度です。最大5年間の在留期間が設けられており、その期間中に技術研修を行います。

他の就労資格と異なる点は、就労を目的とせず、技術研修がメインなので福祉業界における人手不足解消には至らないことも。

しかし、最大5年間の技能実習修了後は、福祉業界で就労可能の在留資格「特定技能1号」に移転ができます。

そのため、技能実習生の受入れを行う障がい者グループホームも少なくはありません。

技能実習を行うにあたってメリット・デメリットも存在します。

メリットとしては、転職がないので一定期間は人材確保が可能である点です。また、技能実習生は日本に入国前から業務経験もしくは講習を受けていることが条件なので、現場の即戦力として期待できます。

一方でデメリットとしては、国家間の技能移転が目的なので最大5年間の期間制限があるため、長期的な雇用が難しい点です。

さらに夜勤を行う場合は指導者が必須なので、受入れ体制をと問える必要があります。

特定技能

特定技能制度は、就労目的として外国人を受入れることで人手不足解消を目的とした制度です。中級レベルの日本語能力と、母国で技術習得が前提であるため、即戦力として期待できます。

技能実習とは異なる点は、業務内容を習得できれば、指導者が不在であっても自己判断で業務が可能であることです。

デメリットとしては、分野問わずに転職も可能なので、離職のリスクがあります。

特定技能では障がい者総合支援法における、以下の事業所が受入れ可能としています。

  • 短期入所
  • 障がい者支援施設
  • 療養介護
  • 生活介護
  • 障がい者グループホーム
  • 自立訓練
  • 就労移行支援
  • 就労継続支援
  • 福祉ホーム
  • 日中一時支援
  • 地域活動支援センター

他にも14分野の職種や事業所でも受入れを行っているため、就労のハードルが低い制度でもあります。

外国人労働者の受入れ時の注意点6つ

障がい者グループホーム側は外国人を採用する場合に、「介護」に関する就労ビザ取得が就労条件としています。

また、在留期間が過ぎたのにもかかわらず、就労を継続している場合は不法就労とみなされるため、雇用側が罰せられることになるので注意が必要です。

採用する前に、在留資格の内容と期限をしっかり把握しておくことがポイントになります。

外国人労働者の受入れ時の注意点を、以下の6つで紹介します。

  1. 受入れ準備とサポート体制が必要
  2. 異文化の違いに配慮する
  3. 外国人労働者は安い労働力ではない
  4. 就職先の義務付けは禁止
  5. 労働時間に気を付ける
  6. 在留管理に配慮する

受入れ準備とサポート体制が必要

受入れ側は外国人労働者をサポートの準備と体制を整える必要があります。仕事面はもちろん、彼らの生活面においてもサポートがあれば安心するでしょう。

慣れない環境で仕事することは外国人でも不安があるので、文化の違いや価値観を理解する姿勢で受入れることを心がけましょう。

異文化の違いに配慮する

外国人労働者の母国の文化によっては宗教も異なります。宗教によっては、食事制限やお祈りの時間が必要なので、配慮をしなければなりません。

日本では見慣れない光景ですが、彼らにとっては習慣そのものなので理解が必要です。

外国人労働者は安い労働力ではない

最近では外国人労働者の給料問題で、最低賃金を下回ることが問題視されています。原則、最低賃金法を遵守する必要があるので、日本人と同等の処遇でなければなりません。

外国人労働者のなかには日本で生活を望む人もいるので、決して差別的な扱いは許されないことを意識しておきましょう。

就職先の義務付けは禁止

日本語学校や養成学校に通う留学生に奨学金を給付・貸与する場合は、その事業所への就職を義務付けることが禁じられています

貸与の場合は、学校卒業後に一定期間就労することを条件として奨学金の返還を免除が考えられますが、就職しなかった場合の返済ルールを決めておきましょう。

労働時間に気を付ける

介護福祉養成学校に通う留学生をアルバイトとして雇用する際には、法令を遵守しなければなりません。

留学生は入国管理局で資格外活動の許可を受ける必要があります。また、週に28時間以内に定められているため、労働条件を書面による明示や労災保険への加入などが義務です。

在留管理に配慮する

外国人労働者を受入れている事業所は、彼らの在留管理に気を付けましょう。

在留期間の更新手続きの支援を行う必要があります。内容の確認を怠ってしまうと不法在留になる可能性があるので、外国人労働者の管理体制を整えることがおすすめです。

まとめ

本記事では障がい者グループホームにおける外国人労働者の受入れについて紹介しましたが、人手不足解消に効果的であることは間違いありません。

福祉業界では外国人労働者の受入れている施設は少数ですが、高評価の意見もあるのでメリットが多い制度ともいえます。

しかし、将来的に労働人口が減少することで人手不足が深刻になるため、外国人留学生や労働者に関する制度・政策の目的を理解したうえで、活用するといいでしょう。

日本人も外国人も一緒に仕事をすることで、言語の壁や文化の違いがあっても信頼関係が生まれます。

職場環境に新しい空気を入れてみると、雰囲気が変わるかもしれません。