近年、新型コロナウイルスやノロウイルスの影響で感染症に伴う食中毒が流行しています。

特に、限られた空間の障がい者グループホームなどの福祉施設では、感染症や食中毒の発生率が高くなる傾向も。

こういったウイルスから身を守るために、どのような予防策が必要になるのでしょうか。

本記事では、福祉施設の感染症および食中毒の予防について解説します。

最後まで読んでいただくことで、発症の未然防止に繋がるでしょう。

感染症とは?

病気の原因となるウイルスなどの病原体が人間の身体のなかに入り、体内増殖することを「感染」と呼ばれています。

感染は、人間が咳などの飛沫を行うことで、また別の人間に病原体が入り込んで感染を繰り返すことで広がるものです。

感染すると、発熱や下痢といった症状が現れることで「感染症」と判断されています。

感染症は、複数の感染経路から拡大することが一般的ですが、発症を最低限に抑えるためには予防策が必要です。

感染症の代表的なものは、新型コロナウイルスやノロウイルス、腸管出血性大腸菌、コレラ菌が挙げられています。

人間が疲労感を感じたり、体調を崩したときに免疫力が低下すると、感染するリスクが高くなるため、普段から生活リズムや食事に気をつけなければなりません。

感染経路と予防策

ウイルスの感染経路は、以下の3つが挙げられています。

  • 飛沫感染
  • 空気感染
  • 接触感染

上記の感染経路と、その予防策について紹介します。

飛沫感染

飛沫感染は、空気中の塵や飛沫核と呼ばれる病原体を含む粒子が体内に侵入することで感染します。

飛沫感染の代表例は、インフルエンザ、新型コロナウイルス、風疹ウイルスです。

人間が咳やくしゃみをしたり、会話中に口や鼻から細かい水しぶきをすることで水分が蒸発し、乾燥することで細かい微粒子が空気中に浮遊します。

近くにいる人間がこれを吸い込むことで、簡単に侵入ができるわけです。

飛沫には水分が含まれているため、1〜2mほどで地面に落下します。しかし、飛沫核は非常に軽い病原体なので、広範囲に空気中を漂い続けることで、予想外の場所で感染することは珍しくありません

予防策

障がい者グループホームなどの入居施設では、室内感染のリスクがあるため、常にマスクの着用が必須です。

また、施設内の換気を行ったり、空気清浄機の設置することで予防になります。なるべく密着しないように距離をとったり、ケアの前に消毒を徹底するなどの意識が必要です。

空気感染

空気感染は、人間が病原体と一緒に飛沫したあとに空気中に浮遊しているウイルスを吸い込むことで感染します。

空気感染の主な病原体は、結核菌、麻疹ウイルス、水痘ウイルスです。

施設における集団生活では、空気感染のリスクが高く、完璧に予防することが難しいので、1人1人の免疫力を上げる生活習慣が重要になります。

室内の充分な換気や、消毒はもちろん、利用者の方やスタッフがストレスをためないように工夫が必要です。

予防策

福祉施設には共有スペースがあるため、触ったものに対して毎回消毒するといいでしょう。たとえば、食事するテーブルや食器、家具など、頻繁に接触するものが挙げられます。

利用者の方やスタッフのマスク着用をルール化し、換気の悪い空間、密集する場所、密接した会話をなるべく避けるように心掛けましょう。

接触感染

接触感染は、感染者の咳などで対外に出されたウイルスを含む唾液や、排せつ物を触ることで、感染する方法です。

直接触れること以外にも、物を介して間接的に感染することもあります。

たとえば、咳やくしゃみをするときに口を触った手で、電車のつり革やドアノブに接触することで、ほかの人間が付着したウイルスを触るといったことです。

多くのウイルスは口、鼻、目から侵入することがあるため、顔を触った手で食事をしたときに初めて感染を起こします。

接触感染で代表的な病原体は、ノロウイルス、新型コロナウイルス、インフルエンザです。

予防策

接触感染の主な予防策は、こまめな手洗いや消毒、手袋の着用が挙げられます。

また、ケアが必要な人と接する際に、個人防護具を着用することで感染のリスクを低下させる工夫も必要です。

なるべく1人1人が使用するものを共有せずに、個人専用にすることで拡大防止にも繋がります。

食事前には必ず消毒するなど日常的に習慣化するといいでしょう。

福祉施設における感染症の予防策

障害福祉サービスには、入所施設や通所施設があるため、感染症を発症する可能性が少なくはありません。

利用者の方が安心して福祉サービスを受けるためには、徹底した感染対策が重要になります。

感染症は見た目ではわからない場合があるため、人によっては無症状の場合も。福祉施設の場合は、健康管理だけでなく外部との連携も必要不可欠になります。

福祉施設における感染対策で重要なポイントは以下の3つです。

  • 保健所との連携
  • 利用者の健康管理
  • スタッフの健康管理
  • 施設内の環境管理

それぞれ厚生労働省が推奨する感染予防策に基づいて、説明します。

<出典:厚生労働省>

保健所との連携

福祉施設は、利用者の方の健康管理において外部との連携が必要になります。特に、近年の新型コロナウイルスが流行しているなかで、よりいっそう保健所との連携を強化しなければなりません。

仮に、福祉施設内で感染者が現れた場合は、最初に利用者の家族をはじめ、保健所など関係機関に連絡します。

保健所による疫学調査で、濃厚接触者が特定されると、数日間の隔離が必要になることも。

福祉施設はすぐに保健所と連絡がとれる体制に整えることが大切です。利用者の方やスタッフの健康管理を徹底するためには、早期発見・対応することで感染防止になります。

少しでも違和感を感じたら、保健所に相談することがおすすめです。

利用者の健康管理

施設に入所している利用者の方の健康管理を毎日実施することで、異常に気づくことができます。

健康管理チェック表を作成して、定時に検温や体調を記録することで変化の可視化が可能です。

また、利用者の方には可能な限り、マスクの着用と消毒に協力してもらうようにしましょう。

また、栄養摂取が充分であるか、顔色が悪くないかを常に把握する必要もあります。

スタッフの健康管理

施設で働くスタッフは、自宅から職場まで出勤や外出する機会が多いため、利用者の方よりも外にいる時間が長い傾向があります。

スタッフは、出勤前に検温や感染症の疑いのある症状を確認しなければなりません。もし、異常が認められた場合は、出勤しないようにスタッフ間で共有する必要があります。

スタッフの健康管理も日常的に記録することで、早期発見に繋がるため、チェック表を用意しておきましょう。

スタッフは、利用者の方と物理的に一番近い存在になるため、ケアごとに手洗い・消毒を心掛けることがポイントです。

また、感染対策を意識しながらの業務に負荷を感じるスタッフも少なくはありません。

スタッフのメンタルケアのために、定期的にカウンセリングを行う配慮も必要です。

施設内の環境管理

施設内の密室空間では、感染のリスクが高いため、環境管理に努めなければなりません。

スタッフの体調が悪化したときに、休暇が取りやすい勤務体制に整える必要があります。

また、スタッフと同居している家族に感染症状の疑いがある場合は、管理者に報告・相談しましょう。

施設内の食堂やスタッフルームで飲食をする際に、食事中の会話や対面で座らない工夫が必要です。

職場の外でも、人が集まる場所で長時間過ごすことを避けたり、普段から感染症が現れたときのシミュレーションを実施することで感染防止に繋がります。

支援中の予防策

福祉施設内で利用者の方に日常的な支援を行うなかで、人と接する業務であるため、直接的な支援が必要になります。

サービスを提供するためには避けては通れませんが、普段から予防策を徹底することで、利用者の方も安心するでしょう。

それぞれ以下の場面ごとに、具体的な予防策を紹介します。

  • 日中活動
  • 食事
  • 排せつの介助
  • 入浴の介助
  • 医療処置

日中活動

たとえば、障がい者グループホームでは利用者の方の自立支援を目的とした日中活動の実施が重要ですが、本人にも予防策を意識してもらう必要があります。

仮に就労支援施設への通所する場合に、なるべく人が密集しない場所に行かないようにするルールを作るなど工夫することで、感染防止に協力してもらうようにしましょう。

食事

施設内における食事はなるべく個室で行うことがおすすめです。もし、個室がない場合は、対面を避け、座席1つ分の間隔を空けるようにしましょう。

また、食事前には手洗いと消毒に協力してもらい、食後の食器も充分に洗浄を行うことが必要です。

排せつの介助

排せつの介助においてトイレは感染リスクが高い場所であるため、徹底した清掃と消毒が必要になります。

利用者とスタッフも感染予防を行い、使用後の手袋やマスクを捨てたり、介助の前後に消毒を心掛けるようにしましょう。

入浴の介助

入浴の介助で使用する場所も密室になるため、スタッフは感染予防を行ってから、必要に応じて支援する必要があります。

利用者の方が使用するタオルや衣類は、洗濯後にしっかり乾燥させるようにしましょう。

医療処置

医療的なケアを必要とする利用者の方に医療処置を行う場合は、決められた予防策を適切に行いましょう。

医療処置を行うスタッフは、手指消毒と防護具の着用を行い、ケアのあとには交換することを意識することが大切です。

食中毒の主な種類と症状

食材の加熱不足や菌の繁殖が進んでいる物を食べることで、腹痛や頭痛といった症状が現れる食中毒。

福祉施設に限らず、自宅での普段の調理においても発症するリスクを抱えています。食中毒が起こる原因と症状について把握しておくことで、発症を未然防止が可能です。

こちらの表では、代表的な食中毒の種類と症状について記載しています。

サルモネラ菌 ・十分に加熱していない卵・肉・魚などが原因。
・主に生卵、オムレツ、牛肉のたたき、レバ刺しに多い。
・乾燥(かんそう)に強く、熱に弱い。
食後、6〜48時間で、吐き気、腹痛、下痢、発熱、頭痛などの症状が出る。
黄色ブドウ菌 ・人間の皮膚、鼻や口の中にいる菌。
・傷やニキビを触った手で食べ物を触ると菌が付きやすい。
・加熱した後に手作業をする食べ物が原因。
・主におにぎり、お弁当、巻き寿司、調理パンに多い。
・黄色ブドウ菌が作る毒素は熱に強く、一度毒素ができてしまうと、加熱しても食中毒を防ぐことができない。
食後30分〜6時間で、吐き気、腹痛などの症状が出る。
腸炎ビブリオ菌 ・生魚や貝などの魚介類が原因。
・主に刺身、寿司に多い。
・塩分が多い場所で増殖する菌。真水や熱に弱い。
食後4〜96時間で、激しい下痢や腹痛などの症状が出る。
カンピロバクター ・十分に加熱されていない肉や、飲料水、生野菜などが原因。また、ペットから感染することもある。
・主に十分に火が通っていない焼鳥、十分に洗っていない野菜、井戸水や湧き水に多い。
・乾燥に弱く、加熱すれば菌は死滅。
食後2〜7日で、下痢、発熱、吐き気、腹痛、筋肉痛などの症状が出る。
腸管出血性大腸菌 ・十分に加熱されていない肉や生野菜などが原因。
・主に十分に加熱されていない肉、よく洗っていない野菜、井戸水や湧き水に多い。
・十分に加熱すれば食中毒防止が可能。
食後12〜60時間で、激しい腹痛、下痢、血が多く混ざった下痢などの症状が出る。
・重症化すると、死亡することも。
ノロウイルス ・生カキなどの二枚貝を十分加熱せずに食べた場合や、ウイルスに汚染された水道水や井戸水などを飲水することで発症する。
・主に十分に加熱されていないカキ、アサリ、シジミに多い。
・熱に弱い。85度以上で1分間以上加熱する必要がある。
・食中毒にかかった人の便や、嘔吐物から感染することもある。触れたら手洗いを徹底する。
食後1〜2日で吐き気、下痢、腹痛などの症状が出る
E型肝炎ウイルス ・加熱不足の豚肉や内臓を食べたことが原因。
・海外の地域によっては生水や生物から感染する場合もある。
・主に十分に火が通っていない豚肉やレバーに多い。
・熱に弱いため、中心まで十分に加熱すると食中毒防止になる。
無症状が多い。一部の人は感染から6週間経過すると、倦怠感や、皮膚が黄色になったり、発熱する場合がある。

<出典:厚生労働省>

食中毒発生を防止するには?

食中毒は、飲食店で食べた物が原因で発症するイメージが強いかもしれませんが、普段の家庭料理でも発生します。
しかし、家庭における食中毒の症状は軽症の場合が多く、風邪や寝冷えと勘違いされることもあるようです。

時間が経つと、重症化する可能性があるため、調理方法の見直しが必要になります。

食中毒の原因は、細菌やウイルスが食べ物に付着することで体内に侵入することです。

ただし、ウイルスの場合は食べ物のなかでは増殖しないため「調理場にウイルスを持ち込まないこと、ウイルスを広げないこと、食べ物につけない、加熱処理すること」が原則になります。

食中毒を防止するためには「細菌を食べ物につけない、細菌を増殖させない、食べ物や調理器具に付着した細菌を加熱処理すること」が大切です。

こちらの3つの原則について詳しく予防策を紹介します。

つけない

人間の手には多くの雑菌が付着しています。特に無意識に顔や髪の毛を触る回数が多いため、細菌やウイルスが食べ物につかないようにしなければなりません。

手の雑菌を落とすためには、手洗いが有効です。たとえば、調理前やトイレに行ったあとになります。

また、調理したあとのまな板や、加熱しない野菜にも雑菌が付着していることが多いため、きれいに洗い、殺菌までしましょう。

余った食材の保管においても、密封容器に入れたり、ラップをかける工夫が必要です。

増やさない

ほとんどの細菌は、高温多湿の環境を好むため、食材の保管方法に注意しなければなりません。気温が10度以下の場合はゆっくり増殖しますが、マイナス15度以下では増殖が止まります。

細菌の増殖を防止するために、低温保存が必要です。特に、肉や魚などの生物は早めに冷蔵庫に保管するようにしましょう。

しかし、冷蔵庫に保管していても、温度がマイナス15度未満の場合は細菌の増殖が進むため、早めに食べることが大切です。

加熱処理

多くの細菌やウイルスは加熱処理によって死滅するため、食材をしっかり加熱することで食中毒の防止が可能です。

特に肉は中心部まで最低75度で1分以上は加熱をしましょう。

また、使いかけの布巾やまな板、包丁にも付着しやすいため、洗剤で洗浄してから熱湯で雑菌処置することが必要です。

まとめ

本記事では、福祉施設の感染症及び食中毒の予防について紹介しました。

感染症と食中毒は、障がい者グループホームのような入所施設だけでなく、普段の生活上でも起こりうるため、常に感染対策が必要です。

特に近年の新型コロナウイルスが流行しているなかで、利用者の方やスタッフの予防策に対する意識の強さで感染リスクを低下させることに繋がります。

この機会に施設内の環境や、食中毒防止のために調理方法の見直しをしてみましょう。