障害をもつ方が将来的な自立を図るために、本人の出来る範囲のスキルを活かした施設外就労が勧められています。
しかし、障がい者の方と施設外就労について以下のような疑問も。
「障がい者グループホームと施設外就労はどんな関係あるの?」
「施設外就労の内容と導入するメリット・デメリットは?」
本記事では、障がい者グループホームと施設外就労の関係性から、施設外就労の内容と導入のメリット・デメリットについて解説します。
施設外就労とは?
一般就労が困難な障がい者の方で、雇用契約を結びながら就労が可能になる就労継続支援A型および、A型にて就労経験があり、年齢や体力を理由に雇用が困難な方が対象の就労継続支援B型と呼ばれる障害福祉サービスがあります。
そのなかで、事業所など施設の外で利用者の方が就労を行う「施設外就労」は、職員とユニットを組みながら作業する活動です。
施設外就労は企業と雇用契約を結び、最低賃金と社会保険が保障される就労サービスです。
現場では、企業側から作業指示を受け、職員のサポートを受けながら利用者本人が作業を行います。
しかし、近年の新型コロナウイルスの影響により、事業所や企業で就労が難しくなったことで、就労系サービスが厳しい状況に。
特に令和元年度もしくは令和2年度の就労実績に穴が空いた方が増加したことにより、報酬の算定が難しくなりました。
そこで厚生労働省は障がい者の方をはじめ、事業所への影響を最小限にするために、令和2年度の実績への影響を踏まえ、令和3年度の報酬改定で施設外就労加算を廃止しました。
<出典:厚生労働省>
施設外就労の要件
施設外の企業や官公庁で指定の作業を行う働き方する施設外就労では、利用者の方の報酬となる算定対象は以下のような要件になります。
- 1ユニットあたりの最低定員は1人以上で、施設外就労の総数は利用定員を超えないこと。
- 最低月2回は、施設外就労先または事業所内で訓練目標に対する達成度の評価等を行うこと(令和3年度の報酬改定により削除)。
- 施設外就労を行う利用者数(1ユニットあたり)に対して報酬算定上必要とされる人数の職員を配置すること。
- 事業所については、報酬算定上必要とされる人数の職員を配置すること。管理者、サービス管理責任者についても配置が必要。
- 施設外就労の提供が、運営規程に位置づけられていること。
- 施設外就労を含めた個別支援計画が事前に作成されていること。
- 緊急時の対応ができること。
- 施設外就労により就労している者と同数の者を主たる事業所の利用者として、新たに受け入れることが可能であること。
- 施設外就労先の企業とは、請負作業に関する契約を締結すること。
<出典:厚生労働省>
施設外就労の対象者
施設外就労の対象者は以下のとおりです。
- 知的、精神、身体障害をもつ方でサービスの利用開始時に継続的に就労することが可能な方。
- 就労移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった方。
- 特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった方。
- 企業等を離職した者等就労経験のある方で、現に雇用関係がない方。
利用料
施設外就労の利用料は、障害福祉サービスの利用者負担として以下のとおりに、世帯別に異なります。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限額 |
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 |
市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)20歳以上の入所施設利用者を除く。収入が600万円以下世帯が対象。 |
9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
施設外就労と施設外支援の違い
施設外就労と施設外支援は一見、似ているように見えますが、比較するとまったく異なることがわかります。就労継続支援における施設外就労と施設外支援の違いを比較してみました。
※本体施設は事業所を指します。
就労継続支援 | 施設外就労 | 施設外支援 |
支援を実施する職員の要否 | 必要 | 不要 |
報酬算定対象 | 本体施設利用者の増員分 | 施設外支援利用者 |
本体施設利用者の増員 | 可(利用定員の70/100以下) |
不可 |
施設外でのサービス提供期間 | 無 |
年間180日を限度 |
加算 | あり |
なし |
<出典:厚生労働省>
施設外就労の実施後は実績報告をしなければなりません。報告先は利用者本人の受給者証の発行元である市区町村です。市区町村によっては報告不要の場合もあるので、事前に確認しておきましょう。
施設外支援とは?
施設外支援とは、就労実習に対する支援のことをいい、労働や生産活動、請負作業ではありません。
基本的にボランティアで企業から就労支援を受けられるため、雇用関係はなく、報酬が発生しない就労系サービスです。
支援を行う職員を必要とせず、サービス提供時期が180日と決まっています。
施設外支援の主な支援先は以下のとおりです。
- 一般企業
- 他の就労継続A型
- 委託訓練先
- 在宅就労
また、施設外支援は、施設外就労と同じように報酬対象になりますが、加算の対象となりません。
施設外支援の要件
施設外支援の要件は以下のとおりです。
- 施設外支援が、当該施設の運営規程に位置付けられていること。
- 施設外支援の具体的な内容が個別支援計画に定められており、その支援により、就労能力や工賃の向上及び一般就労への移行が認められること。
- 施設外支援中の対象者の状況について、対象者や活動先の事業所等から活動の状況を聴取することにより日報を作成すること。
- 緊急時の対応ができること。
- 障がい者試行雇用(トライアル雇用)及び精神障がい者ステップアップ雇用との関係について指定の要件を満たすこと。
障がい者試行雇用(トライアル雇用)及び精神障がい者ステップアップ雇用については、下記の要件を満たす場合、施設外支援の対象となること。
①障がい者試行雇用(トライアル雇用) |
(ア)上記1・3・4の要件を満たすこと。 |
(イ)施設外のサービス提供を含めた個別支援計画を3か月毎に作成(施設外サービス提供時は1週間毎)し、かつ見直しを行うことで、就労能力や工賃の向上および一般就労への移行に資すると認められること。 |
|
②精神障がい者ステップアップ雇用 |
(ア)上記「①障がい者試行雇用(トライアル雇用)」の要件を全てみたすこと。 |
(イ)施設外の活動時間が週20時間を下回る場合、通常の施設利用を行うことにより、週20時間以上とすること。 |
<出典:厚生労働省>
障がい者グループホームと施設外就労の関係性
障害をもつ方同士が少人数の共同生活を送る障がい者グループホームは、障害福祉サービスの1つです。
基本的に20歳以上の方から入居可能で、日常生活上で利用者の方の食事、入浴、排せつなどの支援を行います。
就労継続支援においては、実際に障がい者グループホームの日中活動として利用する方も多いサービスです。
たとえば、施設外支援において、在宅で就労する場合は障がい者グループホームでも作業ができます。
将来的な自立を目指す方も障がい者グループホームを利用しているので、就労系サービスで一般就労に就職するために、職業訓練を受ける方も増加傾向です。
施設外就労にも様々な職種があるので、働き方を選べるメリットがあります。
経験を積み上げるためにも、施設外就労を考えてみてもいいでしょう。
施設外就労の事例
現在、就労継続支援事業所を経営している方で、事業拡大のために施設外就労の導入を検討する企業も多いでしょう。
事業所利用者の方が外部の法人に就労することで、契約に基づき報酬加算が行われます。
施設外就労は、他社企業と提携もしくは自社既存事業と構築した事業展開が主流です。
就労継続支援A型・B型、就労移行支援のいずれも同様の方法で、施設外就労の導入を行います。
施設外就労の具体的な事例は、以下のとおりです。
- ホームページ製作業務
- 農作物の植え付け、収穫作業
- スリッパの袋詰め
- クリーニング作業
- パンの製造販売
- 移動販売カフェ
- ポスティングの請負
上記のように、業務の幅や種類が広く、利用者本人のスキルや希望に応じて就労支援が受けられます。
施設外就労の導入におけるメリット・デメリット
障がい者の方の就労支援を行う事業所において、施設外就労は利用者の方の視野と経験を積むために必要です。
次は、施設外就労の導入におけるメリット・デメリットを紹介します。
施設外就労を導入するにあたって、メリットとデメリットを知っておくことで事前に改善すべきことが把握できます。
メリット
施設外就労の導入のメリットは以下のとおりです。
- 働き方の選択肢が増える
- 就職先の確保
- 事業所内の定員以外にも上乗せで人数追加可能
- 将来的な直接雇用経験ができる
それぞれ1つずつ解説します。
利用者の働き方の選択肢が増える
他社企業と提携が上手くいけば、障がい者の方にとって働き方の選択肢が増える機会になります。
自社事業所でも、多種多様な仕事を提供できれば、利用者数の増加が期待できるでしょう。
就職先の確保
施設外就労の導入のメリットには、就労系サービスの目的である一般就労につながることです。
施設外就労の新規利用者獲得と一般就労へのサイクルを回すことができれば、加算上も評価されるため、自社の売上が増加していきます。
事業所内の定員以外にも上乗せで人数追加可能
事業所内の定員以外に、施設外でも利用者人数を追加できるメリットがあります。
具体的にいうと、20名が定員の事業所であっても、施設外にさらに20名を追加できるため、1日あたり合計40名の利用者を受け入れ可能です。
将来的な直接雇用経験ができる
障がい者の方を直接雇用の際にノウハウを学べるので、将来的な直接雇用が期待できます。
デメリット
施設外就労の導入におけるデメリットは以下のとおりです。
- 信用が必要
- 外部の影響を受けやすい
- 内部環境を整える
それぞれ順番に解説します。
信用が必要
他社企業と提携するだけなら可能ですが、自社で完結させる場合は信用の高さを証明するために法人化を検討しましょう。
スタートは最小限のリスクで試験的に運用することがおすすめです。
外部の影響を受けやすい
特定の法人に依存すると、流行真っ只中の新型コロナウイルスによる景気停滞など外部の影響を受けやすくなります。
内部環境を整える
長い職歴をもつスタッフが多い事業所の場合、他社企業との提携に抵抗感を覚えることも。
また、提携先企業が障がい者の方を支援できるノウハウがない場合があるので、内部環境から整える必要があります。
まとめ
本記事では、施設外就労の内容から導入のメリット・デメリット、障がい者グループホームとの関係性について解説しました。
障がい者の方にとって将来的な自立のための中間地点である就労系サービスは、必要不可欠なものです。
施設外就労には、多種多様な職種と働き方が存在するので、利用者の方のスキルと希望が受け入れやすくなります。
また、令和3年度の報酬算定についても見直しが実施されたことで、外部からの影響を最小限に抑えることが可能です。
これから施設外就労の導入を検討する事業所経営者の方も、本記事で紹介したメリットとデメリットを把握することで、現時点ですべきことがわかります。
適切に施設外就労の運営ができるなら、利用者の方だけでなく、経営者側にもメリットがあるので、この機会にぜひ検討してみましょう。