近年、少子高齢化による福祉業界の人手不足が懸念されており、現場の人材確保に苦労する施設も多いため、業務効率化が求められています。
そのなかで、障がい者グループホームの現状に対する問題点が以下のように挙げられています。
「人手不足で仕事が大変」
「業務量が多い」
本記事では、障がい者グループホームにおける現場の人材確保と業務効率化について解説。この記事を読むことで、現状の人手不足に対する課題と問題点も把握できます。
障がい者グループホームの現状と問題点とは?
福祉業界のみならず、飲食や物流など他の業界においても常に人材不足が続くなかで、業務効率化が求められています。
近年の労働人口の減少により、現場の人材確保が難しく、個人の業務負担も懸念されています。また、障がい者グループホームにおける人材不足の影響で、スタッフの労働時間が長くなることも。
障がい者グループホームの現状では、以下のような問題点が挙げられています。
- 利用者定員に対する人員不足
- 人員配置基準の不足による業務負担
- 大量の事務作業
- 新人の採用に消極的
それぞれ順番に解説します。
利用者定員に対する人員不足
障がい者グループホームの利用者に対する人員配置基準が満たされていない状態になると、スタッフの労働時間で長くなりがちで、残業や通しの常態化が問題視されています。
また、スタッフの離職率が高い職場環境の改善が進まずに新人を採用しても人員不足が続く可能性も高くなりがちです。
こういった問題を放置しておくと、満足に利用者へのサービスが提供できずに障がい者グループホームの運営へのダメージが深刻になります。
場合によっては定員の見直しや利用者の受け入れの一時停止が必要になり、経営の立て直しが困難になることも。
主な原因は、その障がい者グループホームに応募者がいないことや、採用しても早期退職してしまうことで、改善に至っていない場合があります。
年配の方や無資格者は採用しないといった採用担当者の選り好みも少なくはありません。
これらが慢性化すると、今後の障がい者グループホームの運営に支障をきたす可能性が高くなります。
人員不足を解消するためには、人材の採用方法を見直しや、スタッフの離職を防ぐための人事制度の改正、福祉系の資格取得のための研修も効果的です。
離職理由に多い人間関係と待遇面においては、どの職業でも重要視すべき課題になるでしょう。
人員配置基準の不足による業務負担
人員配置基準の不足による業務負担で、スタッフの過労リスクが高まります。たとえば、基準には満たしていないが、シフトがギリギリ組める状況の障がい者グループホームでは、スタッフの休暇が取れない場合が当たり前です。
管理職が早番から遅番までの通し勤務することが多く、満足に有給休暇が取れません。またスタッフを外部研修に出向させることができない状況が続きます。
こういった障がい者グループホームで勤務するスタッフは、心身ともに疲弊している可能性が高く、体調不良による離職に繋がることが問題視されています。
上記のような問題を抱えている障がい者グループホームでは、日常業務の見直しから始めなければなりません。施設のスタッフが本来取り組むべき業務に専念するために、誰にでもできる業務をボランティアにお願いする方法もあります。
不要なミーティングや誰も見ない記録も思い切って削減することも必要です。余裕ができれば、スタッフの福利厚生やカウンセリングを積極的に取り入れてみましょう。
ただし、単純な昇給だけでは解決することはありませんので、日常的にスタッフを労わることも忘れてはいけません。
人員配置基準
障がい者グループホームにおける人員配置基準は以下のとおりです。
従業員 | 世話人 | 常勤換算で、利用者数を6で除した数以上 |
生活支援員 | 常勤換算で、次の①から④までに掲げる数の合計数以上 ①障害支援区分3に該当する利用者の数を9で除した数 ②障害支援区分4に該当する利用者の数を6で除した数 ③障害支援区分5に該当する利用者の数を4で除した数 ④障害支援区分6に該当する利用者の数を2.5で除した数 |
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サービス管理責任者 | ・利用者数が30人以下:1人以上 ・利用者数が30人以上:1人に、利用者数が30人を超えて30又はその端数を増す毎に1人を加えて得た数以上 |
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管理者 | 常勤で、かつ、原則として管理業務に従事するもの(管理業務に支障がない場合は他の職務の兼務可) |
<出典:厚生労働省>
新人の採用に消極的
障がい者グループホームだけでなく他の業界でも常に人手不足が続くなかで、新人の採用に消極的な職場も存在します。
様々な要因はありますが、業務を引き継いでもらえる後継者や若手社員がいないことで頭を抱える経営者も少なくはありません。
こういった職場は既存のスタッフが定着しており、長年に渡って顔ぶれが変わっていない点がメリットです。しかし、管理職が固定化することで、新入社員が入社しても自身の将来像がわからなくなり、短期間で離職するリスクもあります。
また、長年勤務するスタッフの業務方法に固執する傾向があり、業務改善に踏み切れない職場も。こういった職場環境では若い人が定着しないので、後継者が育たずに常に人員不足状態が続きます。
運営者側は思い切って新卒スタッフを多めに採用すると、一気に職場の空気が変わるでしょう。なぜなら、若いスタッフへの指導を通じて、ベテランスタッフにも見えなかった気づきが生まれるからです。
外部委託やボランティアを募集することも視野に入れておくといいでしょう。障がい者グループホームや福祉業界では、人ありきのサービスを提供しているので、人に投資する価値は充分にあります。
障がい者グループホームにおける人手不足の対策
障がい者グループホームにおける人手不足の原因は、少子高齢化や労働人口の減少など社会的背景のほかに、現場にも課題があります。
特に福祉業界全般に対して業務量の多さや、雇用面での待遇、体力的・精神的にきついイメージが多いかもしれません。
また、福祉業界の現場ではスタッフ同士だけでなく、利用者やその家族、外部スタッフとの連携が必要不可欠ですが、人間関係にストレスを感じる人も。
さらに待遇や人間関係が上手くいかなくなると、仕事に対するモチベーションが低下することで、離職を考えるスタッフが現れるでしょう。
こういった人手不足に対して以下の対策があります。
- 職場環境の改善
- ICTの活用
- 資格取得の支援
- 外国人労働者の受け入れ
それぞれ解説します。
職場環境を改善
人手不足が慢性化した職場では、多忙によりスタッフの業務に余裕がないことも多いでしょう。環境に慣れてしまうと、すべてが当たり前に見えてしまうため、異常さに気づかないことがあるかもしれません。
職場環境を改善するためには、長年勤めているスタッフのやり方や、業務のルーティンを見直す必要があります。また、新人スタッフの採用と育成に力を入れなければ、業務改善に至らないことも。
従業員が働きやすいと感じる職場環境とは、人間関係が良好で雰囲気や風通しが良い職場です。また、プライベートとの境目が曖昧な職種だからこそワークライフバランスの考え方も取り入れると尚良いでしょう。
業界や職種関係なく、人間関係の良い職場は仕事へのモチベーションを高めるので、従業員の定着に繋がります。ほかにも人事制度の見直しや、新人採用の手法を改善することも効果的です。
ICTで業務効率化
障がい者グループホームを含む障害福祉サービスは、訓練等給付や介護給付など幅広い種類が存在します。そのなかで、各サービスごとに利用者1人ひとりの支援内容の記録を残さなければなりません。
さらに利用者の地域生活や就労支援のために、自治体や事業所に情報を提供する場面が多いため、膨大な情報管理業務が発生します。
ほかにも施設運営に関わる必要書類やスタッフのシフト作成業務も加わるので、障害福祉サービス全般的に事務作業で多忙です。
業務の多くはアナログで紙媒体なので、ICT(情報通信技術)を活用することで業務効率化を実現できます。
具体的には、利用者情報や支援記録をデータ上で管理することで書類を探す手間を省くことが可能です。つまり、利用者に直接サービスを提供すること以外の業務はICT化ができます。
ICTで業務効率化するための手順は以下のとおりです。
- 現状の業務内容を把握する
- 業務効率化したい作業を選ぶ
- 業務効率化の方法を決定する
- ICTを導入する
いきなりICTの導入はハードルが高いので、まずは現在の業務内容を把握するところから始めるといいでしょう。
誰が何の作業を担当しているかを把握しておくと、無駄な工数や残業時間を減らすことに繋がります。
ICTを導入するときのポイントは、現場のスタッフが使いやすいツールを選ぶことです。ITの知識がない人でもICTを活用できれば業務効率化が加速します。
資格取得の支援
障がい者グループホームでは、無資格・未経験の方でも働くことは可能ですが、将来的に役職に就きたい場合は資格取得がおすすめです。
また、福祉系の資格を持っている人は採用時に優遇されることが多く、資格手当や即戦力として期待されることも。
しかし、資格を持っていない人に対する支援がない職場では、スキルアップは本人の意思に任せきりの場合もあります。
普段、業務が多忙で勉強する時間の確保が難しいスタッフに対する資格取得支援があれば、仕事のモチベーションが上がり、将来のキャリアアップや昇給の期待ができます。
また、求人募集情報にも資格取得の支援制度の記載があれば、応募のハードルが下がるメリットも。
資格取得の支援制度のようにスタッフの成長を応援できる職場があれば、働きやすくなるでしょう。
外国人労働者の受け入れ
近年、多くの企業では外国人労働者の受け入れが進むなかで、障がい者グループホームを含む福祉業界でも活発です。
2019年4月に新設された特定技能と呼ばれる在留資格には1号・2号がありますが、福祉業界では1号のみが認められています。
特定技能は人手不足の深刻化に対応するために、日本国内で生産性向上や人材確保を行っても困難な状況に置かれている産業分野において、即戦力となる外国人を受け入れる制度です。
特定技能1号では最長5年間まで日本で就労ができます。2号については、建設業と造船・舶用工業のみとされています。また、在留期間の上限はなく、一定の条件を満たせば永住権の獲得も可能です。
特定技能1号では以下の障害福祉サービスが対象となります。ただし、訪問系サービスは対象外なので注意しましょう。
- 短期入所(ショートステイ)
- 障がい者グループホーム
- 療養介護
- 生活介護
- 自立訓練
- 就労移行支援
- 就労継続支援
- 日中一時支援
- 地域活動支援センター
特定技能を持つ外国人には優秀な労働者が多いため、将来的に海外進出にかなり有利です。一方で最長5年間しか労働できないデメリットもあります。
<出典:厚生労働省>
まとめ
本記事では、障がい者グループホームにおける現場の人材確保から業務効率化について紹介しました。スタッフに定着してもらうためには、以下のような働きやすい職場作りがポイントです。
- 職場の問題点と課題を明確化する
- 課題対策のために優先順位を決める
- 業務効率化したい作業を選ぶ
- スタッフに納得してもらう
- チームで取り組む・定期的に振り返る
従来のやり方が浸透している職場では、新しいことを始めると反発することも少なくはありません。しかし、人材不足や業務過多の問題を解決するためには、人事制度の改革やICTの導入は必要な施策です。
障がい者グループホームの利用者が将来的な自立を目指すために、サービスを提供する施設のスタッフに対するケアも欠かせません。
もし現場の人材確保や職場環境に悩んでいるなら、この機会に業務改善に取り組んでみましょう。